Visitors look at vehicles during a motor show in Jakarta, Indonesia, Feb. 7, 2026. (AP Photo/Tatan Syuflana)HANOI, Vietnam —Read full story here
✅ AI解説
インドネシア政府が世界最大のニッケル供給を巡る統制を強めています。近年、同国は原鉱の輸出禁止や精錬・下流投資の誘致で世界のニッケル市場における存在感を急速に高めてきましたが、同時に森林破壊や炭素排出の増加、そして鉱区やプランテーションの「押収」を含む強権的な措置が相次ぎ、地元住民や環境団体からの反発も強まっています。こうした動きは、電気自動車(EV)やステンレス鋼などを巡る米中の資源確保競争と重なり、世界のサプライチェーンに波紋を広げています。
データは示唆的です。S&P Global Market Intelligenceによれば、インドネシアの世界市場におけるニッケル供給シェアは2020年の約31.5%から2024年には約60%へと跳ね上がりました。背景には2020年の原鉱輸出禁止があり、これが中国資本による精錬・冶金投資を呼び込み、加工段階での輸出が増えたことが大きく影響しています。ジャカルタは当初、ニッケルを核に国内で鉱山→電池→完成車までを含む「完全な」EV産業を育てることを期待していましたが、期待通りには事が運ばなかった部分も少なくありません。
一連の取り締まりも目立ちます。インドネシア当局は2025年、いわゆる「不正な天然資源の利用」に対する摘発を強化し、多くの鉱業やプランテーションの許認可が贈収賄に絡む、あるいは正式に承認されていないと主張しました。その結果、すでに約400万ヘクタール(約980万エーカー)に及ぶ鉱山やプランテーション、加工拠点が押収され、17億ドルの罰金が科されました。さらに今年は追加で約450万ヘクタールを押収する可能性があると当局は示しています。一方で、専門家らはこうした摘発が出るタイミングに疑問を呈しています。というのも、世界のEV向け需要構造が変わり、ニッケルの“果実”を得るタイミングが徐々に後退しているとみられるからです。エネルギーシフト研究所のプトラ・アディグナ氏は「森林は既に限界まで搾取されたが、EVのバリューチェーンは手に入らなかった」と指摘しています。
中国はインドネシアのニッケル分野で主導的な役割を果たしてきました。世界最大のニッケル埋蔵量が集中するスラウェシ島は、世界の鉱山生産の過半を占める地域とされています(IEEFA)。中国は長年ここからニッケルを調達してきましたが、2020年以降の加工強化で「ニッケルマット」など半加工品の輸入が急伸しました。実際、ニッケルマットの中国向け輸出は2020〜2023年で約28倍に増え、そのうち90%超がインドネシア由来と報告されています。これにより、北米や南米、欧州の世界シェアは相対的に低下しました(国際ニッケル研究グループのデータ)。
ただし、その過程で生じた環境被害は深刻です。世界資源研究所(WRI)の分析では、2001〜2020年にインドネシアで失われた森林約37万ヘクタールは、国別では最大の面積でした。そのうち3分の1超は古い成長段階の熱帯雨林で、炭素貯蔵が大きく気候変動抑制上重要な区域です。加えて、精錬所での石炭利用が温室効果ガス排出を押し上げ、IEEFAの2024年分析では主要ニッケル生産者が2023年に約1,500万メトリックトンの温室効果ガスを排出したと推計されています。現地では住民の生活や健康が害された事例も報告されており、ある大規模鉱山(主に中国の企業が関係)では軍と地元テレビが出動する形で押収が実施されました。
インドネシア側の戦略は下流産業の育成でしたが、実際の投資と成果はまちまちです。2024年7月には韓国の現代自動車グループとLGエナジーソリューションがインドネシア初のEV電池セル工場を稼働させ、年産15万台分以上の電池を供給できるとされました。しかし、2025年4月にはLGが80億ドル規模と報じられた大規模投資から撤退する決定を下し、市場や投資環境が想定より厳しいことを示しました。中国勢ではBYDがEV工場を建設中で、世界最大の電池メーカーCATLも国営企業と共同で工場を建設しています。国内のEV販売は拡大しているものの、2024年の販売台数は約4万3千台で国内市場全体の約5%にとどまり、公共の充電インフラも2024年時点で約1,500基と限定的です。エネルギーシフト研究所によれば、仮にインドネシアが年産100万台のEVを作り、ニッケル多めのバッテリーを優先しても国内ニッケル生産量の1%未満しか消費しない計算になるといいます。
世界のバッテリー市場の変化もインドネシアを悩ませています。多くの自動車メーカーはリチウム・鉄・リン酸(LFP)電池へとシフトしており、LFPはニッケルやコバルトをほとんど使わず、安価で安全性や寿命の面で利点があります。国際エネルギー機関(IEA)はLFPがEV市販市場のほぼ半数で使われていると報告しており、結果としてニッケル需要の伸びは緩やかになりつつあります。こうした化学組成の変化は、インドネシアが描いた「ニッケルで完全EVバリューチェーンを築く」というシナリオの実効性を低下させています。
地政学的側面も見逃せません。アナリストは、インドネシアの国有化や押収強化が中国の影響力を一部緩和し、米国や他国の投資を呼び込みやすくする可能性があると指摘します。実際、ジャカルタは米国に対して重要鉱物分野への投資を呼びかけており、ドナルド・トランプ政権下で行われている関税交渉の一環で原鉱輸出禁止の解除を米国に対する譲歩として示すことも検討されていると伝えられています。ただ、これは非常に難しい瀬取りであり、どの程度の妥協が実現するかは不透明です。アジア政策系の研究者リー・シュオ氏は「両超大国の間で資源をどう配分するか、インドネシアは板挟みになる」と述べ、同地の動きを東南アジアの他国も注視していると指摘します。経済法務研究のビヒマ・ユディスティラ氏は、こうした不確実性が新たな投資をためらわせるとし、「未来が不明瞭になれば投資コストは跳ね上がる」と警告しています。
結局、インドネシアの選択は二重のジレンマを抱えています。ひとつは環境と社会的コスト――森林破壊や住民の権利侵害、温室効果ガスの増加という現実です。もうひとつは市場と技術の変化――LFPなど新しいバッテリー化学がニッケル需要の伸びを鈍らせ、投資の採算性を揺るがす点です。これらが絡み合うなかで、ジャカルタの強硬な介入が短期的にどのような成果をもたらすのか、また長期的に地域と世界のサプライチェーンにどんな影響を及ぼすのかは、まだ見えない部分が多いといえます。関連する話題としては、日本近海での希少金属堆積の発見や、米日などが電池用鉱物確保で連携を進める動きも報じられており、こちらも今後の資源外交に影響を与える要素となるでしょう。今後の交渉と技術動向を巡る行方が、世界のEV産業と気候対策の成否に直結する――そう見られる局面に私たちはいるのです。

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